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福岡地方裁判所直方支部 昭和37年(モ)122号 決定 1962年11月15日

申請人 寒竹アキ

右訴訟代理人弁護士 高木定義

被申請人 寒竹浩

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実及び理由

申請人は申請の趣旨として別紙目録記載の不動産について昭和三十七年十月二十三日当裁判所言渡の財産分与に関する判決により共有持分五分の二の所有権移転請求権保全の仮登記仮処分を命ずる旨の決定を求めその申請の理由として申請人は昭和三十五年三月二日被申請人を被告として御庁に離婚並に慰藉料及財産分与請求の訴を提起し、右は御庁昭和三十五年(タ)第一号事件として受理となり数回の御審理を経て、昭和三十七年十月二十三日

主文 1、原告(申請人)と被告(被申請人)とを離婚する。

2、省略

3、被告は原告に対し、別紙添附物件目録記載の不動産に対する原告の共有持分五分ノ二について所有権移転登記手続をなすべし

4、省略

以上の判決があり、右判決正本は昭和三十七年十一月一日送達された、而して右判決は、不動産登記法第三十二条、第三十三条に所謂仮登記権利者が仮登記の原因を疏明する文書に該当することは明かである。

被申請人は、右判決に対し目下控訴準備中との由で、若し控訴提起となれば少くとも一ヶ年以上所有権移転の登記手続は出来ず、その間被申請人が所有権移転登記、抵当権設定登記をなすの惧れ充分なるにつき止むなく本申請に及ぶにあると謂うにある。

よつて按ずるに本件申請は不動産登記法第二条第二号の所有権移転の請求権を保全する為のものであり、且つ申請人は当裁判所が申請人被申請人間の昭和三十五年(タ)第一号離婚並びに慰藉料請求事件等について昭和三十七年十月二十三日言渡した申請人一部勝訴の離婚並びに財産分与を認めた判決に基き財産分与請求権があると主張して右判決の確定前に右請求権についてその保全の為仮登記仮処分を求めるものであるが財産分与請求権は離婚の判決の確定することによつて発生する請求権であり、判決確定前に於ては財産分与請求権はなく、且つ申請人主張の如く上訴した場合は上訴審に於て離婚を許すか否か財産分与を認めるか否か、仮に財産分与を認める場合に於ても原審と全く異なる方法を以て分与を命ずる場合もあり得るのであるからこのような諸般の事情を考慮すると判決確定前の現在に於ては、申請人の主張する財産分与請求権なるものは未だ発生せず且つ将来上訴審に於て財産分与が認められるか否か、及び認められるとしても如何なる方法で認められるか否か全く未確定であり、本請求権が将来確定するか否か全く不明であるから第一審に於て財産分与を命ずる判決がなされたとしても右主張の請求権はその判決の確定前に於ては不動産登記法第二条第二号の仮登記の対象となる請求権に該当するものと解することは出来ない。

そうであれば本件申請は理由はないから失当として却下すべく訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 新穂豊)

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